大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和27年(れ)162号 判決 1952年11月11日

主文

原判決中、被告人土屋繁に関する部分を破棄する

被告人土屋繁を懲役三月及び罰金五〇〇〇〇円に処する。

但し三年間右懲役刑の執行を猶予する。.

右罰金を完納することが出来ないときは金二〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中予審における証人斎藤充、第一審における証人宮戸安之助に支給した分は被告人土屋繁の負担とし、第一審及び原審における証人鈴木久子並びに第一審における証人新ミチエに支給した分は同被告人と相被告人小室光三との連帯負担とする。

本件公訴事実中釘に関する物価統制令違反の点につき被告人土屋繁を免訴する。

被告人小室光三及び同馬場巽の上告はいずれもこれを棄却する。

理由

被告人土屋繁の弁護人井本台吉、同草野治彦の上告趣意、被告人小室光三の弁護人松永孝、同名尾良孝、同真室光春の上告趣意及び被告人馬場巽の上告趣意はいずれも末尾添付の別紙書面記載のとおりである。

弁護人井本台吉及び同草野治彦の上告趣意第一点前段について。

所論は原判決後における大赦の主張であって、刑訴四〇五条に当らない。尤も、原判決が判示第四の(一)において引用している第一審判示第四の(一)の事実中、乾パン及び自動車用揮発油を除くその余の物品については、その統制価格を指定した各関係官庁の告示が昭和二七年四月二八日までには既に悉く廃止せられるに至っていたことは所論のとおりであるが、これ等の物品に関する国家総動員法違反或いは物価統制令違反の事実は前記乾パン及び自動車用揮発油に関する物価統制令違反の事実と連続一罪の関係にあるものとして起訴処断せられているのであり、昭和二七年四月二八日政令一一七号大赦令二条には「前条に掲げる罪に当る行為が、同時に他の罪名に触れるとき、又は他の罪名に触れる行為の手段若しくは結果であるときは、赦免をしない」とあって、いわゆる連続犯は想像的競合罪や牽連犯と同様処分的一罪であるから、本件の如く連続犯中に大赦令によって赦免される罪と然らざる罪とがある場合には、その連続一罪を為す犯罪は総べて赦免されないものと解するのが相当である。

同第二点、弁護人松永東、同名尾孝及び同真室光春の上告趣意並びに被告人馬場巽の上告趣意は、事実誤認又は単なる法令違反の主張であるから、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権で調査すると、弁護人井本台吉及び同草野治彦の上告趣意第一点後段も指摘しているとおり、被告人土屋繁に対する本件公訴事実中、原判決が判示第四の(二)において引用している第一審判決判示第四の(二)の釘に関する物価統制令違反の点については、前記大赦令一条八七号により大赦があったので、刑訴施行法三条の二刑訴四一一条五号により原判決中同被告人に関する部分はこれを破棄し、刑訴施行法二条旧刑訴四四八条に則り当裁判所において判決をすることとし、同四五五条三六三条三号を適用して右事実につき同被告人に対し免訴の言渡をする。而して、原判決が証拠により確定したその余の事実を法律に照らすと、被告人土屋繁の原判示第一の(一)及び(二)の所為は刑法一九八条(但し刑法六条一〇条により罰金等臨時措置法二条一項三条一項一号は適用しない)昭和二二年法律第一二四号附則第四項により同法律による改正前の刑法五五条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、原判示第四の(一)に引用してある第一審判決判示第四の(一)の所為は昭和二七年四月一二日法律第八八号四条により物価統制令五〇条国家総動員法一九条三一条ノ二(但し刑法六条一〇条により罰金等臨時措置法二条一項四条一項は適用しない)価格等統制令七条昭和二〇年六月一八日農林省告示第三二五号昭和二一年一月一八日大蔵省告示第一〇号昭和二〇年九月一八日農林省告示第八号(以上は昭和二一年三月二日までの行為につき適用)物価統制令三条四条四三条三三条(但し刑法六条一〇条により昭和二四年政令第二六号による改正前の物価統制令三三条を適用し、なお罰金等臨時措置法二条一項四条一項は適用しない)昭和二一年三月三日大蔵省告示第八九号昭和二一年二月二〇日商工省告示第三六号昭和二一年三月三〇日大蔵省告示第七三号昭和二一年二月二〇日商工省告示第三六号昭和二一年三月三一日大蔵省告示第二二六号昭和二一年五月二一日大蔵省告示第三四七号昭和二〇年四月二〇日農林省告示第二三四号昭和二一年三月三日農林省告示第五〇号昭和二一年三月三日大蔵省告示第八九号昭和二一年三月三日大蔵省告示第六一号(以上は昭和二一年三月三日以降の行為につき適用)昭和二二年法律第一二四号附則四項により同法律による改正前の刑法五五条に該当するので物価統制令違反の一罪と為し、所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同四八条一項本文を適用し、いずれもその刑の範囲内で同被告人を懲役三月及び罰金五〇〇〇〇円に処し、情状右懲役刑の執行を猶予するのが相当と認められるので同二五条によりこの判決確定の日から三年間同刑の執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、訴訟費用中予審における証人斎藤充、第一審における証人宮戸安之助に支給した分は刑訴施行法二条旧刑訴二三七条一項により同被告人の負担とし、第一審及び原審における証人鈴木久子並びに第一審における証人新ミチエに支給した分は刑訴施行法二条旧刑訴二三八条により同被告人及び相被告人小室光三をして連帯してこれを負担せしむべきものとする。

なお、被告人小室光三及び同馬場巽については、記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められないので、同被告人等の上告は刑訴施行法二条旧刑訴四四六条によりいずれもこれを棄却すべきである。

よって主文のとおり判決する。

右は、弁護人井本台吉及び同草野治彦の上告趣意第一点前段に関し、前記乾パン及び自動車用揮発油についても、その統制価額を指定した主務大臣の告示は既に今日では廃止されているので、犯行後にいわゆる刑の廃止があった場合として、被告人土屋繁はこれ等に関する物価統制令違反についても免訴さるべきであり、従って同被告人に対しては贈賄の点を除くその余の公訴事実については結局すべて免訴の言渡を為すべきものであるとの裁判長裁判官井上登及び裁判官小林俊三の少数意見がある外、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 木村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例